花咲く頃


桃が満開だった。
その下で、誰かを待っているらしい馬超が見える。

たまたま姜維はそれを見つけ、なんとなく暇を装って、話しかけた。


「こんにちわ。人待ちですか?」
「ああ、…女人だ」
「馬超どのも、一応声がかかるものですね」


含み笑いをこぼすと、馬超はむっとした顔で姜維を小突いた。
確かにお前はもてるだろうが、と、おまけまでつけた。


「いえ、馬超どのも男前ですよ」
「気休めはいらん」
「嘘ではないです。私が惚れこむほどですから」


馬超の顔が一瞬苦笑いしたかのように見えたが、
すぐにその表情は元に戻った。


「なあ、嫉妬はないのか」


女人についてか。

姜維はすぐに女人のことを思った。が、すぐに思考から消えた。
どっちにしろ、…いや、女人とは


「しませんよ」
「何故」
「だって、馬超どの。これでも私は軍師です」
「何が言いたい」
「人待ちなんて嘘でしょう」


馬超は難しい顔をして黙ったあと、降参とばかりに手を振った。


「あながち、嘘ではないんだがな」


遠くから趙雲が歩いてくるのが見える。
大きな酒瓶を抱えた男だ。


「確かに待ち人ですね。女人ではないですが」
「花見だ。おまえも少し混ざっていくといい」


姜維を見つけた趙雲は、にこやかに軽く礼をする。姜維も返す。


「馬超どのに誘われましたか」
「いえ、たまたま通りかかったまで。お邪魔なら…」
「花見ならば、人は多い方が良いです。姜維どのも是非」


一番美しく咲いた桃の下に三人は陣取ると、すぐに花見は始まる。
この平和がずっと続くといいと、咲き誇る桃を見上げ一時の平和に浸った。