鬱陶しい


「周瑜、さ、まっ!!」


こちらから二つ向こう側の渡り廊下で、偶然出会ったらしい周瑜の腕に
その奥方の小喬が抱きついているのが見えた。

本日は珍しくじとっとした天気で、よくもあんなにくっついていられるものだ、と
凌統は口を半開きにして見ていた。

2人ともこちらのことは気付いてないないらしく…というか
周囲に数人ほどの人影あれど、そのようなことは端から気にしていないらしい。

周瑜は愛らしいというかのように、小喬の頭を優しく撫で、
何か小喬と話しているようだった。
が、さすがにここまでは聞こえなかった。

まぁ、聞くつもりもないが。


「ああーいいねぇ、羨ましいねー、あんな風になりてぇなあ?」


声の主を振り返ると、いつからそこにいたのか甘寧が立っていた。
あー、こいつも暇なんだなぁと、半開きにした口を元に戻す。
曇っていた空はぽつぽつと雨を降らせてきた。


「あんた、このくそ暑いのにあれが羨ましいのかい」
「それについてはあんまり。
 でもこのくそ暑いのにくっついていられるほどの相思相愛が羨ましいって思ってる」
「あ、そう」
「凌統、お前はどう思って見てたんだよ」


背後から誰かが駆け寄ってくる音がする。
それが誰だかわかった凌統は口を開いて笑った。


「奇遇にも」
「凌統、ど、のっ!!」


先程の小喬と同じような動作で凌統の腕に、陸遜がくっついた。
今度は甘寧の口が半開きになる。


「似たようなことする方々がいらっしゃるとは思わなくてね。
 驚いたって思ってた」
「何の話ですか?」


凌統がなんでもないよ、と言いながら陸遜の頭を撫でると
陸遜は嬉しそうに笑って、疑いもなくそうですか、と頷いた。
甘寧には小喬と陸遜がかぶって見えた。


「陸遜はさぁ…」
「何ですか甘寧どの?」
「俺がもらった!」


と、言うが早いか甘寧は凌統から陸遜を引っぺがし
そのまま肩に担ぎ走り出した。


「うわっ!」
「ちょ!返せ!甘寧お前死ね!!」
「うるせーだまれ陸遜は俺のだっ!!」




「あいつらはいつも気楽そうでいいな」
「そうだね、周瑜さま!」


数人の人影はいつも通り彼らを見送り
その一部の行動は上司に報告される予定である。