飽和


いいことないかなぁって、いいことって案外ない。
そうやって伯言どのは言うけれど、いいことないかなぁって言うのはその当人だ。
只今、ちょうど昼過ぎで


「いーことないかなー」


本日五度目の「いいことないかな」
ただそこに座っているだけで、いいことがあるのなら
伯言どのは徹夜して策を練ったり、戦に出たりしなくて済むのだろうと思う。
いや、そもそも彼にとっての戦は悪いことに入るのか。


「いいことって、例えば何です?」
「そうだねー、晩御飯が僕の好きなものとか!」
「帰ってみなきゃわからないですよ。好きなものかも」
「じゃあ、魏から手紙が来るとかさ」
「同盟の?」
「…そんなものが来たら破棄してやる」
「では、どんな内容をお望みで?」
「よそに送る密書とか、檄文とかかな」
「それは送られてはこないのでは…」
「潘璋あたり奪ってきてくれないかなー」


考えた通り、伯言どのにとっての戦は悪いものではないようだ。
まぁ、あのにやけ顔で世界平和を願う等と言われても、
気味が悪いだけのような気がしないでもない。
面倒だから嫌だ、という理由の方がしっくりくるというものだ。


「戦なんて嬉しくないような気がするのですが…」
「うん。でも僕は仕事が好きだからね。
 毎日平和ぼけしていたら、2,3年後には役立たずになってしまうよ!」
「大袈裟な…」
「人間の頭は使わないと、日々退化していくものだよ」


それは最もかもしれないが、戦乱を望むのは間違っていると思う。
日々成長しないとね、なんて言うけれど、他にやるべき事って沢山あると思う。
例えば、


「たまには内政の方にも力を入れたらいかがです?」
「それは僕の本分でないし」
「いやいや、戯言も大概にしないと上から怒られますよ!」
「あのね、然。僕にだってできないことはあるよ」
「…できないのですか?内政」
「できるけど」
「できるのではないですか!」
「あーもー…然はうるさいし、何かいいことないかなー!」
「例えば?」
「この退屈な時間を奪ってくれる何かが起こる、とかね」


毎日このような感じで"何か"なんて起こった試しは無いけれど
忙しくなったらなったで文句を言う。

日常は平均的にうまくはいかないようだ。