ひきこもり


呂蒙どの

あなたの目に映っていたそれは
今私が見ているものと同じように
いつでも美しかったのでしょうか


朝露が地面に光り、本日は快晴だと知る。
たまには遠乗りに行こう、と凌統が誘ってきたので快諾し
用意が終わるころには甘寧も出現していた。
おまえら二人きりで行かすわけには、とか何とか言っているが
実は甘寧には今日中に片付けなければならない書類があり
それから逃げているということは、陸遜にはすぐにわかった。
それの担当の人間を陸遜は哀れんだが…
甘寧を見張っておかなかったことに非があるというということにして
今後に活かしてもらおう、なんてことを考えていた。
今日は仕事のことなど考えたくなかったのだ。


城下を抜けると、美しい草原が広がる。
山々が遠くに連なり、優しい風景の側には河が流れる。
その音は壮大であるが、河の側でずっと育ったものだから癒される道のりだ。

だが同時に胸が痛むのを陸遜は感じていた。

馬に乗り揺られながら道を行く。
隣にちょうど凌統が並んだとき陸遜は口を開いた。


「以前、呂蒙どのと遠乗りに来たのです」
「へえ。陸遜さんと呂蒙どのが同時にサボるなんて珍しいですね」


陸遜は笑って答えた。


「私が落ち込んでいたのです。
 周りから非難され、どう受け流していいかわからなかったころに」
「誘い出してくれたってところ?」
「はい。呂蒙どのは、色々と私に気を遣ってくれました」


「今でも胸が痛いです。引きずっているというのでしょうか。
 呂蒙どのが亡くなられた時、本当につらかったのです。
 ひとりでこの道を走ったとき、この目に呂蒙どのが映ることがないなら
 こんな目など腐って落ちてしまえばいい、と思ったくらいに」


陸遜の目には涙が浮かんでいた。
凌統には何も言葉が出せない。
どんな言葉をかけたとしても、それは気休めにしかならないのは明白だ。
陸遜が望んでいるものは、どんなことをしても二度と得られるものではない。


「移り変わる時代を見るのはつらいですね」
「だろうね」


どうしてでしょうね、と陸遜は自虐的に笑う。
涙で霞んでみえないだけだ。そんなの。今は見えなくてもいいじゃないか。
いつかその涙が乾いたときに、その目に映る光景は苦しいものかもしれないけれど
きっと美しいまま、彼とあなたが見た光景、そのままが映るだろうから。


甘寧が前方で楽しそうにはしゃいでいる。いいなあ楽しそうで。
ついでに陸遜と俺も、そっち側に連れていってよ。