会いに行くよ


 仕事は山積みで、でもそれ以上に気持ちは大きくて、
 何となく、陸遜は、気分を損ねてしまったから、
 駆け足で抜け出した。向かったのは彼のところ。凌統のところ。
 鍛練場にもいない。
 執務室にもいない。
 自室にだっていない。
 城内をぐるぐる走り回っても見つからない。

 それでも陸遜は諦めなかった。
 城にいないのなら、邸宅にいるかもしれない。
 邸宅にいないのなら、市場にいるかもしれない。


 思ったときには、馬に乗って城下を走っていた。
 見つからない。でもどうしても会いたい。でも見つからない。
 途方にくれるにはまだ早くて、日も充分高い場所にある。

 ぐう、と腹が鳴った。
 そういえば、今朝は何も食べていなかった。
 折角会えたとしても、腹が鳴っていれば気分は台無しだろう。
 仕方なしに陸遜は一時城へと戻った。

 自室に辿りつくと、侍女に昼食の準備を言い付け、自らは寝台へ座った。
 太陽に照り付けられた頬が熱い。




 ああ、凌統殿は、どこへ行ってしまわれたのかな




 ふと、扉の方を見やると、そこには使いが申し訳なさそうに立っている。
 客人が見えているけれど、食事はどうしましょうか、と尋ねる彼に、
 それなら、まだ構わないから通して欲しい、と頼む。
 ずっと待たせていたのかと思うと、心が重い。


 客人は探していた凌統だった。


 結局、陸遜の足は二度手間ということになってしまい、
 けれど、陸遜にとって、そんなことはどうでもよかった。やっと会えたのだ。
 笑って、自分の横に座るように促すと、凌統はそれを辞退した。


 「ずっと探していたのですよ」
 「え?」
 「城内も、城下も、勝手かも知れませんが邸宅も訪ねさせていただきました」
 「俺は、ずっと城内にいましたよ」


 申し訳なさそうに、可笑しそうに顔をゆがめる凌統を見て、
 陸遜はなにやら恥ずかしい感情を覚えた。そして誤魔化すように言い訳をした。



 「なかなか…凌統殿と私は、合わないようです」



 凌統が否定の言葉を出しかけたとき、丁度陸遜の腹がぐうと鳴った。
 恥ずかしそうに、今、昼食の準備中だったことを告げると、
 凌統は、ああ、と笑ってしまった。合わないですね。


 「合わせればいいんですよ、陸遜さん」


 え?と聞き返すと、凌統は出直してくる、と言った。
 陸遜が止める暇なく、凌統は扉を閉めてしまった。
 向こう側から去っていく足音が聞こえる。
 侍女が食事を運んできた。

 どういうことだろう

 とにかく、早く昼食を取り、また凌統を探すことにした。




 しかし、それはする必要がなく、
 陸遜が部屋から出ると、凌統をすぐ見つけることが出来た。


 「ほら、ね。合わさったでしょう」


 凌統は笑った。陸遜は、頷いた。そういうことだ。

 合わせることも肝心なのだ。